児童労働の撤廃に向けて?企業?

1.責任・役割

経済のグローバル化に伴い企業の責任・役割も広がっています。主に1)国際労働基準の遵守、 2)自社のサプライチェーンにおける児童労働の撤廃・影響への配慮、3)貧困のない持続可能な社会へ向けた、子どもの権利を守るための社会貢献活動があげられます。 

ILO第138号条約の最低年齢条約で定められた15歳未満の児童労働の禁止、また第182号条約の最悪の形態の児童労働条約で定めたれた最悪の形態の児童労働条約の遵守はILOが三者構成(政府、労働者、使用者の代表)であり、使用者の代表は企業セクター代表であることから、このような条約策定過程においても企業セクターは間接的に関与しています。また国連グローバル・コンパクトの10原則の1つに「児童労働の実効的廃止」があり、OECD多国籍企業ガイドライン、また2010年発行予定のISO26000にも児童労働に関する記述があるなど、世界で操業する企業の責任として、児童労働問題への対応が求められています。

2000年に採択されたミレニアム宣言、また翌年に発表されたミレニアム開発目標は世界の貧困削減に向けた全てのステークホルダーが共通して目指す次元的な数値目標となり、2015年までの貧困人口の半減などが盛り込まれています。この目標2にあたる初等教育の普及を実現するための障害として、児童労働問題が存在することから、世界が目指す社会の実現に向けた児童労働撤廃への企業の社会貢献もますます求められています。

2.活動(現状)

国際労働基準の遵守は企業の社会的責任(CSR)として当然取組むべきことであり、児童労働を禁止し使用しないことは企業活動の前提となっています。しかし、サプライチェーンにおける児童労働撤廃については、各企業の対応、徹底度合いに差が生まれています。

多国籍企業の商品の製造過程における児童労働問題は1980年代から指摘され、消費者やNGOからも各企業の製造過程における児童労働の排除を求める運動が出てきました。たとえ子どもと企業が直接雇用関係になかったとしても、そのブランドの製品を子どもが作っていることが指摘されれば、そのブランドを保持する企業が責任を問われる時代となりました。現在ではCSR調達方針を策定し、サプライヤーに児童労働の不使用を含めた規定の遵守を求め、実際の契約先企業の実施体制をモニタリングしたり、第三者の監査を入れたりする企業も増えています。人権・労働分野に焦点をあてた国際規格SA8000も1997年に策定され、こうした国際規格の認証を受ける途上国の企業との取引を好む企業も出てきました。また、原料をフェアトレード認証を受けたものに切り替えるなど、子どもの権利が守られた製造過程であるとの認証を受けた原料を使用する企業も増えています。

企業の社会貢献活動についてはそれぞれが独自の視点で様々な角度で活動を行っています。児童労働撤廃に向けた活動としては、産業単位で財団などを設立して取り組むケースと、企業が単独で取り組むケースがあります。産業単位としては、タバコ、カカオ、サッカーボールなどで、参加企業が利益の一部を出し合い財団やNGOを設立し現地で子どもの教育普及や児童労働を排除する仕組みづくりの活動を支援しています。

3.特長、課題、他のセクターとの連携

近年、BOPビジネスやソーシャルビジネスなど社会的課題の解決に企業の果たす役割が注目されています。企業活動は各国政府の貿易政策、労働政策の影響を受けますが、多国籍企業の規模が拡大し一国政府の年間予算を超える売り上げを持つ企業もあることから、企業の姿勢、取り組みの影響は極めて大きいといえます。企業のサプライチェーンにおける児童労働撤廃については特に原料までたどることが難しく、企業としてどこまで責任を果たすべきかが問われていますが、実際に児童労働の6割は農業分野で起きているため、原料調達の段階での児童労働撤廃への取り組みが課題です。また、経営・事業戦略とCSR戦略を統合していく企業が多い中で、企業が取る行動の影響が子どもにとって最善の利益をもたらすものかについて配慮することが必要です。

企業が児童労働撤廃に向けた活動を行う場合、NGOや国際機関とのパートナーシップや連携が多くみられます。また「グローバル枠組み協定-企業の行動規範に関する労使協定」(Global Framework Agreements:GFA)は、労働組合、企業、国際的労働組織の三者で結ぶ協定ですが、このような協定を労働組合結び、企業の社会的責任を果たすことを約束する場合もあります。

4.日本での取り組み

経団連が定めた企業行動憲章の前文には、児童労働への言及があり、児童労働への取り組みの必要性は企業セクターも認めています。国連グローバル・コンパクトに加盟する日本企業も増えています。CSR報告書で児童労働に関する記述がある企業数も増えており、特にCSR調達方針を定め、サプライチェーンの児童労働撤廃に気を配る企業が増加傾向にあります。
その一方で、日本企業の世界的なプレゼンスに対し、環境配慮は先進しているものの、人権・労働分野のCSRの取り組みは欧米企業と比べ、あまり目立った取り組みがないのも現状です。その一方で、米国で児童労働の使用に関して日本企業が訴えられたケースもあり、日本企業がグローバル展開をする中で世界から求められている対応が出来ているはひとつの課題となっています。