児童労働の撤廃に向けて?政府?

1.責任・役割

政府の責任は主に1)関連法律の立法と施行、2)児童労働撤廃に向けた政策の立案・実施の2つがあげられますが、それに加え役割として3)国際貿易、調達における児童労働撤廃への配慮、4)違法活動の取締に向けた国家間協力、が求められています。

児童労働の禁止は国際条約で定められています。さらに1998年にILOが定めた中核的労働基準のひとつとして児童労働の禁止が定められたことにより、ILO(国際労働機関)に加盟する国は、その国がたとえ児童労働関連の条約を批准していなくとも、児童労働の禁止状況についてILOに報告を行うことが求められています。

各国政府は児童労働を禁止する法律を定め、それを施行する責任を負っています。特に、ILO第138号条約の就業最低年齢条約(1973年)に定められているように原則15歳未満の労働を禁止することです。また、ILO第182号条約(1999年)の最悪の形態の児童労働条約が定めるように、最も過酷な18歳未満の児童労働については即時撤廃に向けた行動を起こす、つまり政策を立案し実施することが求められています。この条約を批准した各国に2008年までに時限的児童労働撤廃計画を作るようILOは呼びかけています。また、ILO182号条約の第8条では国際協力を通じた児童労働撤廃を求めており、先進国も途上国の児童労働問題の解決に向けた協力の役割があることを示しています。

経済のグローバル化にともない、先進国で消費されている商品が児童労働によって作られている問題が指摘されるようになってきました。先進国政府の中には児童労働や強制労働で作られた製品の輸入を禁じる法律を通じて児童労働撤廃を主に途上国へ積極的に求めている国もあります。また、人身売買・児童ポルノなどの最悪の形態の児童労働を強いている国境を越えた犯罪組織の取締に対し国家間の協力が必要とされています。

2.活動(現状)

途上国政府の対応は様々ですが、積極的に取り組み児童労働撤廃を進めたブラジル政府や、取り組みを進めているものの依然として多くの児童労働者を抱えるインド政府など、取り組みの積極性や結果はまちまちです。また、国際条約を批准していない政府や、批准し国内でも法律の整備が進められていても、実際の施行が出来ていない場合などもあります。

先進国政府は、国際協力などを通じて児童労働撤廃を促している国もあります。その一例として、児童労働撤廃に取り組むILO-IPEC(児童労働撤廃国際計画)への拠出金は以下のように米国が抜きんでて高く、これは米国労働省内に国際的な児童労働・人身売買の撤廃を目指す部門があるためです。さらに、米国は貿易法の中に強制労働・児童労働によって作られた製品の輸入を禁じる法律を持ち、米国政府が物品調達を行う際の大統領令があり、政府として購入しない物品とその原産国リストを公表しています。(米国労働省ホームページEnglish

欧州委員会は、EU貿易政策の策定にあたっては、それが子どもの権利の保護・促進との一貫性を保つものであることを確認する必要があるとの認識が示されています。(欧州委員会ホームページEnglish

児童労働撤廃国際計画()IPEC)への拠出額(2008年)

順位 国名 拠出額(USドル)
1 アメリカ 31,095,550
2 スペイン 4,006,978
3 EEC 2,938,920
4 イギリス 2,938,920
5 デンマーク 2,937,437
6 イタリア 2,212,944
7 オランダ 1,909,008
8 ドイツ 1,015,202
9 アイルランド 880,618
10 ノルウェー 493,332
19 日本 183,794

※日本政府が資金提供している国連人間安全保障基金からIPECへの拠出も含む

3.特長、課題、他のセクターとの連携

児童労働撤廃に向けて政府は大変大きな責任、役割を担っています。政府の政策、またその積極性が児童労働撤廃に向けた施策を決定づけます。途上国政府の一部はILO-IPECの支援を受けデータ整備、国内法の整備、児童労働撤廃に向けた計画の策定、実際に児童労働を撤廃するプロジェクトの実施を行っています。

ILO182号条約で定められた「最悪の形態の児童労働」は、各国が国内の危険・有害労働の特定を行うことになっており、国内の法律整備を行うことが出来るのは政府だけですが、その施行にあたっては国際機関、労動組合、使用者組織、NGOなどと連携し、NGOが意識啓発や行政官の訓練などを行う場合もあります。また、児童労働撤廃に向けた政策を実施する中で、そのためのプロジェクト実施の担い手として国際機関、労動組合、使用者組織、NGOなどと連携する場合も多くあります。国際貿易の児童労働撤廃に向けた法律・制度設計については、政府の指針が企業の行動へも影響を与えるため、大変重要な役割を果たします。政府はしばしばNGOの政策提言の対象ともなります。

4.日本での取り組み

日本政府はILO第138号条約、第182号条約とも批准しています。しかしながら、最悪の形態の児童労働撤廃に向けた計画は、その有無が確認できていません。

国際協力活動においても、日本の援助の実施機関であるJICAの掲げる「人間の安全保障」のコンセプトの中に児童労働も含まれるものの、政府としての児童労働撤廃に向けた明確な方針、政策等は確認できません。日本政府が唯一のドナーである国連人間の安全保障基金は、主に国際機関を通じて「人間の安全保障」が満たされていない人たちへの支援を行っており、児童労働や人身売買等に取り組むプログラムもこの基金の対象となっています。同基金への2006年度までの拠出実績は、累計約335億円、約2億9774万米ドルですが、この基金からのIPECへの拠出額も100万米ドルに過ぎず、日本の国際協力活動の中で児童労働の位置づけはなく、重要視されていないのが現状です。